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熱血指導とパワハラの分かれ目(その1)

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パワ相談件数.jpg いま水面下でパワハラに悩む社員が急増中だ。どの一線を越えるとパワハラに該当するのか?  法曹界の専門家らが、対策を含めてわかりやすく解説する。

 パワハラ──。正式名称はいわずと知れたパワー・ハラスメントであるが、この職場でのいじめや嫌がらせに悩む人が増え続けている。グラフは、厚生労働省がまとめた個別労働紛争でいじめや嫌がらせによる相談を受けた件数の推移。2005年度に約1万7800件だったものが、09年度には同3万5700件へ倍増している。

 「10年前には上司が部下を小突いたり、灰皿を投げるなど、暴行罪や傷害罪などに該当するようなパワハラが、日常茶飯事のように行われている職場も少なくなかった。コンプライアンス(法令遵守)の意識の高まりもあってか、さすがにそのようなあからさまなパワハラは影を潜めるようになった。しかし、水面下では言葉などによるパワハラが依然として横行している」

 こう話すのは、企業内などでのセクハラやパワハラ問題解決に向けたコンサルティングや研修を行うかたわらで、現場の実態をつぶさに見続けてきたクオレ・シー・キューブの岡田康子代表だ。ちなみにパワー・ハラスメントという言葉を初めて提唱したのは、このクオレ・シー・キューブである。

 もともとパワハラとセクハラは密接な関係にあった。部下の女性に性的な接触を求めたものの拒絶され、腹いせに嫌がらせを行うケースが多かったのだ。そのセクハラに関しては1997年の男女雇用機会均等法改正で、事業主は適切に対応するよう求められることになった。しかし、「もう一方のパワハラに関しては、正面切って規定した法律はない」と、労働関係の問題に取り組む菅谷貴子弁護士はいう。

 いま、パワハラの一般的な定義として関係者の間で定着しているのが、10年1月に人事院が各省庁向けに出したパワハラ防止に関する通知のなかでも紹介されている「職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、それを受けた就業者の働く環境を悪化させ、あるいは雇用について不安を与えること」というもの。

 ここでいう就業者とは、何も正社員に限らない。パートやアルバイト、それに派遣労働者も含まれる。「最近の特徴として、派遣社員の間でのパワハラの増加がある。派遣社員はいつ契約を打ち切られるかわからない不安定な立場で、専門的なスキルを要求されることが多いため、派遣社員間でも競争意識が働く。そこで、仕事を教えない、あるいは後輩に過剰に厳しい態度で接するなどして、自分自身の存在価値を証明しようとする傾向があるようだ」と岡田代表は話す。

 また、パワハラというと上司が部下に対して行うものと思われがちであるが、意外なことに部下から上司に対して行われるパワハラも存在する。たとえば、新しく就任した支店長が気に入らないといって、古参の社員が無視するようなケースである。支店内での仕事の進め方を熟知した古参社員の協力なくして、支店長の務めは果たすことができない。その意味で古参社員はパワーを持っているわけだ。

 実際に、この関係の判例も存在する。虚偽の内容のビラをまかれて取引先とトラブルになるなど、部下からのいじめが原因でうつ病になって自殺したのに、労災が認められないのは不当として、遺族が国の処分取り消しを求めた訴訟で、東京地方裁判所は09年5月に処分取り消しの判決をいい渡した。また、男性から女性だけでなく、女性から男性に対するパワハラもありえる。

 ※すべて雑誌掲載当時
プレジデント 2012年9月27日(木)10時30分配信

伊藤博之=文 宇佐見利明=撮影

YAHOO!!ニュースより引用

つづく